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「A君のアコンカグア」(「ビスタリ山ある記(25)」)

大町から見える高い山は相変わらず雪を纏っていますが、センター前の大町公園には全く雪がなくなり、スキー場でも今シーズンの営業を終了するニュースが聞こえてきます。雪の減り具合は例年に比べると1ヶ月は早い感じです。

雪があるうちに山に出かけたいと思っても、年度末の仕事に追いまくられて時間が取れません。それで今回は自分が登った山ではなく、人が登った話。

昨年、私の山岳会に入ったA君が、アルゼンチンのアコンカグアに登ってきました。アコンカグアは南米最高峰で、標高は6,962m。

(道中で見た花)

今年1月、86歳の三浦雄一郎さんが登頂とスキー滑降を目指した山です。三浦雄一郎さんは1月2日に日本を出発し、20日に6,000mまで登ったところでドクターストップとなって登れませんでした。

A君は入れ替わりに1月22日に日本を出発し、24日に登山口のオルコネスに到着しました。ここまでの準備はA君1人でやりました。ここから始まる登山も、日本から持ってきた食料や燃料、テントを背負ってガイドなし。ムーラという荷物を運んでくれる馬(ロバとの交雑種)も使わず一人で登ります。

(ムーラによる荷揚げの風景)

オルコネスの標高は2,950m。25日は3,400mのコンフルエンシアまで登って泊。26日は4,100mまで順応訓練、27日4,300mのムーラスまで登って泊。

(ベースキャンプ(ムーラス))

28日は5,580mのニドまで自分で荷揚。29日は残りの荷物を背負ってニドまで登って泊。30日は6,360mまで順応登山の後ニドに戻って泊。31日は頂上を目指して6,880mまで登りましたが高度の影響でふらふらとなってニドに戻って泊。2月1日はニドで休養。

これで体調が回復し、2日に標高差1,400mを登って頂上に立ち、ニドに戻って泊。3日は、一気にオルコネスまで下山。登山期間10日でした。

(アコンカグア山頂・6,962mの標識)

(山頂から下山時に見た夕日)

アルゼンチンは南半球にあるので今が夏。アコンカグア南面は雪があって厳しい壁となっていますが、A君が登った北西面の一般ルートは雪がなく頂上もなだらかです。

(アコンカグア南面)

技術的な問題がないルートとはいえ、初めて訪れる国で言葉もほとんど通じない中、単独・テント泊でトライし登頂成功したのは立派です。

彼は数年前にキリマンジャロ(タンザニア5,895m)に友達と2人で登った経験を持っています。アコンカグアを選んだのは、今の自分の技術で登れる一番高い山だからだそうです。これからは、ロープ操作や雪上の技術を身に付けたいとも話していました。

私の感覚では考えられないくらい大胆な行動で軽々と登ってきたようにみえる裏で、センターにある低酸素トレーニングシステムを使ってトレーニングもやっています。12月半ばから出発直前の1月17日まで、4,500mから6,260mくらいの標高に設定して5回、泊まったり運動したりしました。低酸素環境で過ごした時間は通算で約20時間です。1月17日の出発前最後のトレーニングで、標高6,260mでゆっくり歩いて少しきつさを感じる程度(主観的運動強度14)に順応が進んでいました。

昨年9月のチベット登山隊員と比べてもよく順応しています。これは低酸素トレーニングの効果があったことに加えて、もともと八ヶ岳を1日で縦走するくらいの抜群の体力(心肺能力)を持っていたことも大きな要因と思います。

もう一つ感心するのは、自分の登山に対してはっきりしたビジョンを持っていることです。ビジョンを持ってしっかり準備する。これが成功の秘訣だったようです。

 

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