長野県山岳総合センターは、安全登山の普及・啓発に関する各種事業を行っています

「低酸素トレーニング」(「ビスタリ山ある記」(13))

いつもの年より早く桜の便りが聞こえてきます。私の住む安曇野で桜が咲くのは、まだだいぶ先のことですが、それでも22日の南岸低気圧が降らせた雪はあっという間に解けてしまいました。

今回は低酸素トレーニングの話し。低酸素トレーニングは正しくいうと、「低酸素発生装置を使った高所順応トレーニング」となります。使うのは、アメリカのHYPOXICO社製の「エベレストサミットⅡ」という装置です。空気の中には、約21%の酸素が含まれていますが、この装置は酸素分子が通過しにくい特殊な高分子膜を使って酸素濃度を12.7%まで少なくすることが出来ます。アダプターを使えば更に9.5%まで下げることができます。これは、標高では3,900mと6,300mに相当します。

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(手前の空気清浄機のような機器が低酸素発生装置、

奥の2つのテントを適宜利用してトレーニングを行う)

高所順応トレーニングは、この装置から出てくる酸素濃度の低い空気を満たしたテント内で「寝る」「本を読んだりして過ごす」「軽い運動をする」ことで、心肺機能に負荷をかけて行います。心肺機能にかかる負荷の大きさは、パルスオキシメータでSpO2(動脈血酸素飽和度)を測って加減します。肺から取り込まれた酸素は、赤血球の中のヘモグロビンと結びついて体の各部にある筋肉に運ばれ、筋肉の中で炭水化物や脂肪と一緒に燃やされてエネルギーを生み出します。SpO2は、ヘモグロビンの何%が酸素と結びついているかを表す数字です。標高の低いところで、健康な人のSpO2はほぼ100です。ところが標高が高くなって、気圧が下がり酸素を取り込みにくくなると、SpO2は次第に下がっていきます。下がり方はかなり個人差があります。私の場合は、標高600mの自宅で測ると96くらい。3月に乗鞍岳に登った時、標高2,400mのテント場で90くらい、3,024mの頂上では、80くらいでした。低酸素トレーニングでは、SpO2が75~85位になる程度の負荷を掛けます。負荷が大きくなるのは、①酸素濃度を下げる ②運動の強度を上げる ③寝る

3月19日に、高所での運動生理学の第一人者である鹿屋体育大学の山本正嘉先生に来ていただいて雪拉普崗日登山隊員が、低酸素トレーニングの勉強会をしました。山岳センターがやってきた「山のグレーディング」や「登山体力セルフチェック」は先生の研究成果を実践したものです。先生のお話をまとめると、

  • 低酸素トレーニングだけでなく、2,500m以上の登山も一緒にやるのがよい
  • 経験を積んだ登山者なら、標高4,000m相当くらいの低酸素環境で寝るのが効果的
  • 登山の3~4ヶ月前から低酸素トレーニングを始めて、登山の1週間前でやめる
  • 低酸素トレーニングの効果は3週間程度持続する
  • 順応が進むと、高いところに登った時、SpO2の下がり方が小さくなる

先生のお話をもとに、雪拉普崗日登山隊は、富士山での合宿と、低酸素トレーニングと、2,500m以上の山に出来るだけたくさん登ることを組み合わせて行うことにしました。

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(直接、マスクをつけて利用することも出来る)

低酸素トレーニングは、陸上競技選手などの間では、かなり知られていて、都会では設備を備えたスポーツジムがあるようですが、登山者が使った実績はあまりないようです。9月までは雪拉普崗日登山隊の隊員トレーニングに使って、効果的な使い方を模索してみる予定ですが、その後は、広く希望する人に使ってもらえたらと思っています。トレーニングの進み具合は、このブログで都度報告していきます。

 


Updated: 2018年3月28日 — 1:56 PM

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