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「十石山」(「ビスタリ山ある記」(9))

11月最初の連休で、ほとんどの山小屋が今シーズンの営業を終えました。
低気圧と高気圧が交互に通り過ぎてその度に山は白く里は寒くなっていきます。11月は山も里も冬の準備の時です。

そんな11月7日(火)、高気圧に覆われて日本晴れになるというので「十石山(じゅっこくやま)」に行ってきました。前の週、私の所属する山岳会の月例会で正月合宿の候補地の一つとして名前が挙がったので雪が降る前に偵察をしようというのが目的です。

平日なのに参加者5人も。3人はこの道40年超、毎日日曜日のロートル、2人はたまたまこの日が休日だった、バリバリだが駆け出しの若手。

「十石山」と聞いてすぐに判る人は長野県人でも少ないかもしれません。乗鞍岳から北につながる稜線上にあります。標高は2,524.9m。
乗鞍岳は大きな山塊で、北に向かう稜線は焼岳を経て穂高連峰につながっています。この稜線は長野県と岐阜県の県境で古くから交易の道がいくつか横切っていました。有名なのは安房峠。しかし標高が1,790mと高いので、20年前に安房トンネルが開通するまで11月中旬から5月中旬は雪のために通行できませんでした。

「十石山」の頂上近くに避難小屋があって、入り口には「十石峠避難小屋」と書いてあるので、昔は交易の人たちが安房峠だけでなくこの登山道を往来したのかもしれません。

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登山口は白骨温泉。白骨温泉には上高地に入る国道158号線の沢渡からすこし行ったところから入ります。谷筋の狭い道を登って旅館の間を抜け林道に入りゲート前に駐車。標高は1,480m。地元有志の人たちが整備してくれた登山道は笹が刈り払われ標識もしっかりついています。それでも雪に埋もれてしまうので木の枝などに標識を付けながら進みます。1,800mで道は一度平坦になりその先は単調な登りが続きます。

2,100mあたりから雪が現れ、更に登り続けると次第に視界が開けます。北に霞沢岳、東に浅間山や志賀高原の山々。

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右にトラバースして沢地形を横切ったところで上を見上げると避難小屋の屋根!

手前の平坦地はテント場に最適。チングルマのお花畑だがむろん花は咲いてない。

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避難小屋の横を通って稜線に出ると360度の展望。

目の前に笠ヶ岳から双六岳、西鎌尾根から槍、手前に穂高の連山。羽根を拡げたような岳沢が真正面です。

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避難小屋から南に踏み跡をたどると5分ほどのところに三角点があって「十石山」の小さな柱がたっていました。ここが頂上のようです。

ここで昔話をひとくさり。
山岳会が全盛の頃、正月登山は一年で最大のイベントでした。日焼けで顔がボロボロになる5月の雪上訓練も、重い荷を背負った夏の縦走も、岩に張り付いた秋の岩登りも、全ては正月登山のためでした。
正月、つまり厳冬期に3,000mのピークに立てない奴はヒマラヤには行けないという信仰のような強い想いがありました。日本の冬の山、特に北アルプスの天候は世界的にみても劣悪で、標高では劣るけれどこれを克服すればヒマラヤのピークにも立てると思って、まとまった休みの取れる元旦を挟む越年登山に全精力をそそぎました。私も山岳会に入って4年か5年目の頃、上高地から西穂高を越えて奥穂に登頂したことで大きな自信をつけることができました。しかし高度経済成長の世の中では、このような輩は反社会的勢力以外の何ものでもなく次第に社会から淘汰されて今に至っています。昨今、山小屋での越年登山がさかんに報道されますが、それとは全く違う世界でした。昔話終わり。

正月登山の候補としては、特に危険な場所もなく距離も手頃でよさそうです。特に頂上直下に避難小屋があるのが心強い。私の所属する山岳会ではこのところ正月が明けた1週目の連休に2泊から3泊の計画を立てていて、次の正月は1月6日~8日を予定しています。昨年は中央アルプス空木岳、その前は爺ヶ岳東尾根でした。麓の白骨温泉の人に聞くと積雪は1m程度になるようです。その積雪では1日で稜線に出るのは厳しいかもしれません。

正月登山は雪と体力の勝負。あと2ヶ月あるので気力だけでなく体力も付けておかなくてはなりません。

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