長野県山岳総合センターは、安全登山の普及・啓発に関する各種事業を行っています

「単独行の安全を考える」(「ビスタリ山ある記」(19))

お盆が過ぎて、涼しくなったと思ったら再び暑さが戻ってきました。7月から西日本豪雨、40℃を越える猛暑、逆回りルートを辿った台風12号と、異常の連続です。今年の夏は、季節が壊れ始めた夏として歴史に残るかもしれません。それでも稲の穂は重くなり、蕎麦畑では白い花が咲き始めました。

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前回のビスタリで、「安全な単独行」と書いたら、少なからぬ反響がありました。前に、「センターでは、単独行の講習はやらないのですか?」と聞かれたこともあります。潜在的に単独行に対する関心と不安があるのだと感じます。
「安全な単独行」というのは「1人でも安全な登山の方法」ということだと思いますが、このような登山のやり方があるのかどうかを、先ず一般的に安全に登山する手順を説明し、それを単独行に置き換えてチェックするという手順で考えてみたいと思います。また、この議論は、比較的登山経験の浅い方で、仲間が居ないとか、1人のほうが気楽で自分のペースで登山ができるというような理由で、単独行を行っている人を念頭に置いています。
【登山とスポーツやレジャーの違い】
昨年1年間に、全国で2,583件の山岳遭難事故が起きて354人の人が亡くなりました。長野県だけでも292件の事故が起きて60人の人が亡くなりました。スポーツやレジャーの気分で登る人も多いと思いますが、こんなに沢山の人が死んでしまうスポーツやレジャーはありません。スポーツの試合では、負けて死ぬほど悔しい思いをしたとしても、本当に死ぬことはないですが、登山では負けると死んでしまうことがよくあるのです。登山とスポーツやレジャーの一番の違いはここです。
負けないように、つまり事故を起こしてケガをしたり死んだりしないように山に登るにはどうすればいいのでしょうか。それは、「リスクを回避しながら慎重に登る」ことです。具体的に山に登る手順を示して説明します。
【安全に山に登る手順】
1.登る山を選ぶ

事故をおこさないためには、「自分が“登りたい山”ではなく、自分が“登れる山”に登る」ことが大切です。言い方を変えると「自分の“力量”と、“山の難しさ”を比べて、自分の“力量”が勝っている山に登る」ということです。(図1)

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(図1)

自分の“力量”と書けば一言ですが、その中には図2のように、多くの要素が含まれています。

自分の力量」と「山-002

(図2)

“山の難しさ”は、長野県を始め各県から出されている「山のグレーディング」をみるとわかります(長野県版は山岳総合センターのHPからもみえます)。但し無雪期・好天時・一般登山道という限定がつきます。雪がある時期や、天気が悪い時は、同じルートでも一気に難しくなります。無雪期でも、地図で点線になっているルートや、一般登山道ではない沢登りや、バリエーションといわれるルートは、技術的にも体力的にも、「山のグレーディング」が対象にしているルートより難しくなります。
2.登山計画を立てる
登る山が決まったら、具体的な計画を立てます。ここで出来るだけ多くの情報を集め、リスクを拾い出し、拾い出したリスクに一つずつ対応を考えます。
3.気を付けて登る
計画段階でいくらリスクを想定し、対応を考えておいても、実際の登山中は次から次に、想定外のことが起きます。起きたらそのたびに、よりリスクの低い方向に判断を重ねます。

自分の力量」と「山-003

(図3)
4.振り返る
無事に下山して、「楽しかった。あー良かった」で終わってしまったらレベルアップにつながらない。記憶が定かなうちに、振り返って反省することがあれば、明確にして次の山行に生かす。

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(図4)

このように、山選びから、反省まで、常にリスクを意識し、回避する方向に行動することが、安全に山に登る為の方法です。
【力量を高める】
“登りたい山“に行くには、自分の”力量”を高めることが必要です。どうすればいいでしょうか。
(1) 独学で高める
雑誌・ネット・ガイドブック・技術書などを読んで勉強しながら、易しい山から始めて、少しずつ難しい山に登って経験を積む。多くの人がこの方法でやっていると思います。「山のグレーディング」に載っている、無雪期・好天時・一般登山道の範囲はこれでいいですが、積雪期やバリエーションに登るレベルにまで高めるのは難しいかもしれません。
(2) 講習会・ツアー・ガイド山行などに参加する
独学より短期間で力量を高めることが出来ますが、お金が掛かるのが一番のネックです。「(1)独学」と組み合わせるのが良いかもしれません。
(3) 指導者・仲間と切磋琢磨する
良い指導者のいる山岳会に入れば、高いレベルまで力量を高めることができ、仲間を見つけられ、お金も掛からなくて理想的ですが、人間関係や、安全のためのルールを制約と感じるかもしれません。
【単独行の安全を考える】
ここまで、安全登山の考え方や行動手順を書いてきました。読んだ方はどのように感じましたか。単独行にとって有利な条件や方法をみつけることができましたか。複数より単独のほうが有利なのは、人と相談することがないので、決定や判断を素早く出来るということがあります。行動も、複数より単独の方が素早く出来ることが多いかもしれません。一方で、1人で行う判断や行動は、その人の経験・知識・技術、体力の範囲に偏ってしまうという危険性があります。登山中、困難な状況に陥った時、1人での対応には限界があります。1人だと、どこで事故をおこしたかわからないことも多く、捜索もままならず行方不明になってしまう確率も高くなります。よほど力量が高くて経験も豊富で達人の域に達した人ならいざ知らず、最初に書いたような、まだ山登りを始めて経験が浅い人は、避けた方が良いと思います。仲間がいない人は、講習会やツアーなどに参加すると見つかるかもしれません。手前味噌になるかもしれませんが、山岳センターの講習に参加した人の多くが、「仲間が出来た」と答えています。
山岳センターが、2014(平成26)年夏に、北アルプスの登山口、横尾と中房でアンケート調査をした結果があります。下山してきた人に、パーティーの人数を聞いたところ単独と答えた人は、横尾で13.2%、中房では5.8%、合計では11.6%でした。これに対して長野県警が毎年まとめている遭難統計をみると、遭難者に占める単独行の割合はこの数年間ほぼ30%強です。別々の調査なので単純に比べられないのですが、数字だけみれば単独行のほうが3倍遭難しやすいとみることもできます。
それでも、仲間がいないとか、どうしても気楽に自由に山に登りたいと、単独行をする場合には、リスクを出来るだけ下げるという観点で、次の様なことを心がけることをお勧めします。
・ 何度か経験者と山に登って、具合が悪くなったりせず、自分のことが自分でできるようになるまでは、簡単な山でも単独行はしない
・ 無雪期で天気の良い時、標識や山小屋がしっかりしている一般登山道に限る
・ 非常時の備えとして、雨具・ツエルト・スマホの予備電池・非常食料など、一晩くらいなら山中で過ごせる程度の準備をして登る
・ 家族や知人に登山計画をきちんと伝えておき、登山口でも計画書を提出する。計画を変更する時は家族や知人に連絡する

書き始めるとキリがありません。この通りにすれば事故が起きないということではありません。「単独行は基本的にリスクが高い」ということをお忘れ無く。


Updated: 2018年8月28日 — 8:35 PM

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