長野県山岳総合センターは、安全登山の普及・啓発に関する各種事業を行っています

「剱・北方稜線」(「ビスタリ山ある記」(7))

池の平~剱

9月18日から剱岳に行ってきました。

ルートは池の平~剱岳に登り別山尾根を下りてくるいわゆる北方稜線です。

去年も同じ時期に、ハシゴ谷乗越から小屋泊まり2泊3日で計画したのですが、雨のハシゴ谷で体調を崩し、1日で池の平小屋に入れなくて計画変更しました。

今年はその宿題を片付けるのが目的。昨年の反省から、65歳と64歳の老人らしく、ゆったり日程の3泊4日にし、雨具も新調しました。

初日は台風18号が通過した後で、平地は台風一過となったのですが、強い西風の残った剱岳周辺は雨と風の大荒れでした。それでも回復の兆しの見えた昼前に室堂を出発し、剱御前を越えて剱沢小屋に入りました。

新しい雨具のおかげで風雨の中も快適。2日目は朝から快晴。アイゼンをつけて雪渓を下り真砂沢ロッジ。去年はここに逃げ込んで小屋番の佐伯さんにお世話になった。

ハシゴ谷乗越に渉る橋を過ぎると標識が少なくなる。二股の吊り橋から尾根の登り。豪快な八峰を裏から見ながら紅葉が始まった道をたどって池の平小屋に昼前到着。明るい日差しを浴びて裏剱を眺めながらビールを飲み、風呂に入る・・。至福の時間でした。

3時頃になって源次郎尾根から北方稜線を越えて下りてきた人たちが無事に到着。剱沢小屋を3時に出発した人たちでした。その夜の泊まり客は10人。

3日目の朝は高曇り。この日の行程が核心部分です。テント泊のカップル2人も行くようです。小屋から踏み跡をたどって急な崖をトラバースして小窓雪渓におります。この辺りに昔モリブデンを掘った鉱山があったそうですが、場所はよくわかりません。

雪が堅いのでアイゼン装着。雪渓を詰めたところが小窓。池の平山と小窓の頭の間のコルです。左に折れて小窓尾根稜線東面の踏み跡をたどります。踏み跡は明瞭ですが、傾斜がきついのとザラザラなので気を遣います。向こうから男性2人来てすれ違い。昨夜、小窓の頭の上に明かりが見えて小屋の人たちが心配した人たちでした。

剱から下ってくる途中で道を外し行き詰まったのですが、ビバークを想定していたのでビバークしたそうです。「ご心配をおかけしました」と元気よく下りて行った。ロープも持っていて見るからに大丈夫そう。雪が残っていると急な雪壁のトラバースとなるルンゼに雪は無く問題なく通過。小窓の王に登るルンゼはどこを踏んでも石が動いて、後にはカップルが続いているので気を遣いました。

登り切ると小窓の王基部のコル。右に小窓尾根からの踏み跡があります。先ほどの2人組は剱からやってきてここで右のルンゼに入らないで小窓尾根に迷い混んだのではないかと思います。
左に下れば三の窓。右の切れ落ちた深い谷は池の谷左俣。その向こうに剱尾根。正面は茶色のバンドが天に続くかと思う細く長い池の谷ガリー。谷の深さ、ピークの高さ、切り立った壁の鋭さ。目のくらむような景色です。これぞ剱の核心部。

三の窓に下るバンドは通称発射台。雪がある時期は切れ落ちた雪壁となって大変そうです。降り立ったところが三の窓。雪渓側を覗けばジャンダルムとその向こうにチンネの岩峰が見えます。チンネに取り付くにはもう少し雪があったほうが良いかもしれません。ここからチンネに登ったのは、もう10年以上も前になります。

池の谷ガリーは石の墓場のようなところで、どこを踏んでも動きます。左のチンネ側の方が少しは歩きやすい。右に入ったカップルは苦労していました。登り切ると池の谷乗越。ここを乗越せば長治郎雪渓の右俣で剱沢につながっているのでエスケープに使えます。ここから岩の稜線をたどって剱岳頂上。時間は11時半で池の平小屋から6時間。午後は崩れるとの予報通り剱岳の上空には黒い雲が広がり風も吹いてきたので、長居は無用と写真を撮っただけで下山開始。

別山尾根の下りはクサリやハシゴがつけられ標識がある一般登山道。2時間ほどで剣山荘到着。小屋についてしばらくすると外は暴風雨になりました。

次の日は天気が回復し穏やかな秋晴れで紅葉が始まった雷鳥坂を下って室堂に到着。
2年越しの北方稜線はあっけなく終了しました。室堂から扇沢への乗り物の中で,3人で剱に登ってきたという若い男性グループに聞かれました。「いつか源次郎尾根や八峰、北方稜線に登りたいと思っているがどうすればいいか」と。

これらのルートは一般登山道ではなく、バリエーションルートと言われています。バリエーションルートには、ハシゴやクサリ、標識などの人工的なサポートがありません。そんなルートでも自力で安全で効率的なルートを見つけ出し、滑落したり落石を落としたりせず安定して歩くことが求められます。危険な場所ではロープを使って登下降する場合もあるかもしれませんが、誰もここでロープを使えとは言ってくれないので、自分で判断しなければなりません。ルート中にロープ使用の可能性があれば、使いこなす技術はもちろん、ロープ・ハーネス・カラビナなどの道具を背負って歩く体力も必要です。ロープを使い出せば時間が掛かるので、それを織り込んだ時間設定が必要です。ビバークの用意もあったほうがいいでしょう。つまり、バリエーションに行くなら、ルートファインディング、どこでも安定して歩く歩行技術、危険個所を通過する技術と装備などが必要です。

剱岳の別山尾根ルートで言えば、一服剱から頂上までのルートで、クサリやハシゴ、手がかり足がかりの鉄棒や標識が無くて、他の登山者がいなくても自力で登って下りてくるくらいのことが必要です。カニのタテバイでは登る時にロープがあったほうがいいかもしれません。下りのカニのヨコバイでクサリとその後のハシゴが無いときはちょっとやっかいです。カニのタテバイをクライムダウンするか懸垂下降するのが安全でしょう。

私たちは、8mm×30mのロープを持っていましたが使いませんでした。小窓の王基部から三の窓・池の谷乗越を越えて頂上に行く間は、巨大な岩塔があちこちにあって自分の位置を見失いがちです。予め地形を理解しておくことはもちろん、こまめに地図とコンパスやGPSで自分の位置を確認することが必要です。

こういったことを自分だけとか、同じ程度の仲間だけで身に付けるのは大変です。もしバリエーションを目指すなら、しっかりした山岳会を見つけて指導してもらうか、ガイドさんを頼んで行くのがいいでしょう。

次は自分で行くつもりで、山岳会の指導者やガイドさんと一緒に行って技術や判断力を身に付けましょう。

(写真集)

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仙人尾根から八峰上部と三の窓雪渓

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小窓雪渓

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池の平小屋

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小窓尾根東面をトラバース

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雪があれば急な雪壁のトラバースとなるルンゼ

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小窓の王基部に上がるガラガラザクザクのルンゼ

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正面は池の谷ガリー

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三の窓から池の谷右俣、左は剱尾根、右が小窓の王基部に続くバンド

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池の谷乗越から剱岳につながる稜線

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剱岳頂上

 

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Updated: 2017年10月6日 — 5:19 PM

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